2011年度前期　第4回細胞生物学セミナー

日時：6月28日　16:30～

場所：総合研究棟6階　クリエーションルーム

Quantitative analysis of heterogeneous spatial distribution of Arabidopsis leaf trichomes using micro X-ray computed tomography

Kaminuma,E., Yoshizumi,T., Wada,T., Matsui,M., Toyoda,T.(2008)

Plant,J., 56, 470–482

マイクロX線CT(μCT)を用いたシロイヌナズナの葉の毛に関する空間分布の定量解析

従来の表現型のスクリーニングの多くは、ほとんど量的形質の視覚的観察に依存していた。しかし、その方法では、変異体などのわずかな形質の変化を検出することはできない可能性がある。そこ筆者らは、表現型の解析に体系的なアプローチを行うため、コンピュータを用いた三次元計測に基づく表現型の解析による新しい測定方法を提唱してきた。その測定方法とは、3Dレーザースキャナー計測システムを用いてコンピュータによる3Dモデルの復元を行い、in silicoで量的形質の決定および統計学的な変異体のスクリーニングを行うものである。さらに本研究で筆者らは、3D形態測定装置として、X線微小焦点コンピュータ断層撮影法(μCT)システムを用いた、量的形質判定の方法を提案した。

葉の毛は単細胞または多細胞の付属体で、表皮細胞から生じている。本研究では、シロイヌナズナの野生型、毛の数が増加するCAPRICE(CPC)変異体、毛の数が減少するGLABRA3(GL3)変異体のそれぞれの毛の解析を、それぞれμCTを用いて行った。特に葉身の周縁部、非周縁部、中肋における、毛の空間的な分布を調べた。具体的には葉身の背軸面のおける毛の数、最も近い隣の毛までの距離の平均値、大型の毛の比率を計測した。また、その上で、毛の位置の三次元解析のための手段としての、μCTの優位性と非優位性、特に空間分解能に関しての測定精度について検証した。

その結果、葉身の背軸面において毛は放射方向に不均一な分布を示しており、葉身の周縁部においては非周縁部より多く分布していることが分かった。さらに、野生型とGL3変異体の両方で、葉の中肋において葉の基部から先端部にかけて大型の毛の密度が増大することがわかった。GL3遺伝子は葉の先端部ではなく基部から毛を生じさせ、毛の発達よりも、分布に影響を及ぼすことが示された。一方、CPC遺伝子は毛の成長と発達の進行に影響を及ぼしていた。以上のことから、μCTにより、形態に異常をもつ変異体における遺伝子の制御のしくみの解明のために、正確な表現型が記述を可能となることが明らかとなった。

興味をもたれた方は、ぜひご参加ください。

栗林　剛正